当てはまったら要注意!「依頼しにくい実務翻訳者」になろうとしていませんか?

Foundry / Pixabay

前回の記事では、翻訳会社内でオンサイトの仕事を経験するメリットについて紹介しました。

また、実務翻訳者を目指す人にとってのそのメリットは、翻訳コーディネータ(プロジェクトマネージャ)や翻訳チェッカー(校正者、校閲者、レビューア)を経験し、要は「自分が顧客になってみる」体験から生まれるものでした。

前回はメリット自体を説明するにとどまりましたが、実際、現場の翻訳コーディネータ(プロジェクトマネージャ)や翻訳チェッカー(校正者、校閲者、レビューア)は、翻訳者に対してどのようなことを感じたり考えたりしているのでしょうか?

感じ方や考え方は人それぞれなので、一概に言えない部分が多いかもしれません。

しかし、それぞれの職種を3年くらいずつやっていたことのあるプチ経験者として、このブログの管理人はある程度共通した考え方や思いを持っていると考えています。

実際、翻訳会社内のコーディネータやチェッカーは「そうそう!こないだ登録されたあの翻訳者さんって…」や「いつものあの翻訳者さん、今回もお願いしてみたらさ~…」みたいな感じで情報を共有し、意見を交換しあっているのが一般的だと思います。

というわけで、今回もあくまで私見ですが(というか毎回私見にしかなりませんが)、「依頼しにくい翻訳者」の特徴を挙げてみたいと思います。

前回2つの職種に分けていろいろ書かせていただいたので、今回も2つの職種の視点で書きたいと思います。

翻訳コーディネータ(プロジェクトマネージャ)的に依頼しにくい翻訳者

まずは、自分が翻訳コーディネータ(プロジェクトマネージャ)だったら…というかだったのですが、この職種の視点で依頼しにくい翻訳者さんについて書きたいと思います。

打診メールに対する返信が遅い

翻訳の依頼は基本的にはメールが多いと思います。ちょっと進んだ感じのところや、海外の翻訳会社だとSkypeを使ったりすることもあるかもしれません。

よほど急いでいるときは、電話がかかってくることもあるでしょう。

しかしとにかく、打診に対する返信は早いに限ります。なぜならコーディネータやプロジェクトマネージャは、複数の案件や作業を抱えていてなるべく早く担当者を決めたいと思っているからです。

では、どれくらい早く返信すればいいのでしょうか?

「1時間以内に返信」では、すでにもうわりと遅いと思います。そして、「20~30分以内」だとコーディネータ目線では、「ありがたい圏内」みたいなところに入ると思います。

しかし、そんなレベルをはるかに超える人がいて「5~6分以内に返信する」という翻訳者さんもいます。

そのようなレスポンスの早い人は、「急いでるときはあの人に聞けば!」になる可能性大なので、それだけで差をつけられるかもしれません。

いつまでにどれくらいの分量に対応できるかよくわからない

これも打診に対する返信ですが、個人的な事情や状況については非常に細かく書いてあるのに、「いつまでに」、「どれくらい」できるのかが明確でない返信を受け取るとコーディネータはかなり困ると思います。

翻訳分野や仕事によっても異なると思いますが、コーディネータによって提示される作業期間や分量は調整可能なこともあります。

「納期をどれくらい延ばせば」できるのか、あるいは複数人で作業するような場合は「分量を減らせば提示どおりの納期に間に合うのか」などが提案されていた方が円滑にやりとりが進むと思います。

ちなみに、翻訳の作業依頼が重なってしまって「まったく対応できない」という実質的に「お断り」の返信は、翻訳者としてはなかなか返信ボタンを押す気になれないメールかもしれません。

しかし、コーディネータとしては、その結果によって追加でほかの担当者を決めなければならない、という局面になっているときがあるので、「できません」というお断りのメールを送る場合も「妥当な理由とともに迅速な返信」が良さそうです。

質問がまったくない

これもやっぱり仕事によりますが、翻訳の作業時には翻訳指示書やスタイルガイド(翻訳時のさまざまなルールを記載した資料)、用語集、参考資料などが前もって支給されます。

基本的にはそれに従って作業がなされていればいいとは思います。特に、よく依頼を受ける継続案件などはなおさらだと思います。

しかし、それ以外の部分で、翻訳作業時にはさまざまな疑問が出てきて当然です。たとえば…

  • 資料には指示が記載されていないものの、全体に影響しそうな表記の統一
  • 指示内容の解釈によっては翻訳者ごとにバラつきが出そうなところ
  • 今回に限っては指示通りにやるとマズそうだと思うところ
  • そもそも資料に書かれているべきなのに、発注側でそのことに気付いてなさそうなこと
  • 複数の資料があり、書かれている指示が矛盾している…などなど

にもかかわらず、作業が終了するまで質問がゼロという翻訳者さんがいたりします。

そんな場合、コーディネータ目線では「この翻訳者さん、大丈夫かなぁ?」と思われてしまっても仕方ないかもしれません。

たとえば、質問がゼロだった翻訳者さんの納品が完了し、期待どおりになっていない部分が少しでも見つかったとします。

このことを後からコーディネータが知ったとき、それは「確認なく一方的に処理された」とか、「どうも翻訳者さんは気付いてくれなかったようだ」と捉えられかねません。

まったくコミュニケーションすることなく仕事を終えるよりは、それが「確認」くらいのニュアンスの質問だったとしても、ちょっとくらいはやりとりがあった方が先方としては安心かもしれません。

質問が多すぎる

さっきとは真逆のことになってしまいますが、コーディネータ的には質問が多すぎるのもこれはこれで困ってしまう部分があると思います。

「必要だから質問するのに、質問に多い少ないもないんじゃない?」と思われるかもしれません。

それはそのとおりだと思いますが、結局その「必要な質問なのかどうか?」を判断するのはコーディネータ側なので、「不必要な質問が多いなぁ」と思われればそれまでということになってしまいます。

要は、「案件の作業を進めるうえで、あまり重要でないことばかり質問してくる」ので、「その案件に向いていない」と思われてしまう可能性がある、ということです。

これは人によってかなり感じ方や考え方が分かれるところで、実はコーディネータと翻訳者の相性に関わるような深い問題につながっていると個人的に考えています。

なので、一概に言うのは非常に難しいですが、次のような質問は控えることができると思います。

  • そもそも支給された資料に答えが書かれている質問
  • 資料を読んで検討した結果、人によって判断が分かれないような質問
  • ごく一部にだけ該当する非常に個別的な問題で、別途コメントを提出すれば済むような質問

翻訳可能な分量が極端に少ない

翻訳可能な分量については、翻訳会社の登録時に尋ねられることがほとんどだと思います。「一週間に訳せる分量は?」とか、「一日の処理量は?」とか聞き方はいろいろでも、翻訳会社側では基本的に「処理量が多い翻訳者」を待っています。

理由は明確で、その方が納期を短くできたり、大きな分量の案件もお願いできたりするからです。また、処理量が多いと翻訳者の数を少なくすることができ、案件の管理に割く工数も少なくなって効率的です。

では、どれくらいの分量を訳せるといいのか?ということですが、プロの翻訳者が1日に訳せる標準的な分量は、英日(英文和訳)の仕事で原文2000ワードほどと言われています。

その分野や内容にもよりますが、これを大きく下回ってしまう場合は、仕事の打診自体が来なくなってしまうこともあると思います。

ここで特に気を付けるべきなのは、副業で翻訳をやる場合です。

翻訳という仕事はよく「子育てしながらできる!」とか、「副業でもぜんぜんOK」みたいなことが言われたりします。

それ自体は間違っていないと思いますが、対応できる曜日や分量にあまりに大きな制約があると、場合によっては依頼が来ないこともあるかもしれません。

翻訳チェッカー(校正者、校閲者、レビューア)的に困ってしまう翻訳者

それでは、今度は、翻訳チェッカー(校正者、校閲者、レビューア)の立場で「依頼しにくい翻訳者」の特徴を挙げてみたいと思います。

職種的に、翻訳チェッカーはほとんどの場合、翻訳の依頼を直接する立場にはありません。しかし、翻訳チェッカーによる訳文の評価はコーディネータなどの担当者と共有されることもあります。

つまり、チェッカー側で「今回の翻訳者さんちょっと…」ということになれば、その評価がコーディネータにも伝えられてその後の依頼に影響する場合というのは十分あります。

誤字脱字が多かったり、指示を守っていなかったりする

トライアルのときは非常に良かった翻訳者さんでも、いざ仕事になると仕上りに大きな差が出たりします。

基本的なところで、作業する分量が多くなってくると、どうしても誤字脱字というのが発生しやすくなります。

ここで、作業後に自分で見直しがしてあるとこれがかなり少なくなりますが、見直しがしていないとだいたい残ってしまいます。ここだけで結構差がつくと思います。

また、翻訳の作業時にはその案件に固有の内容も含め、さまざまな指示があらかじめ出されます。

指示や資料を十分に確認できておらず違反しているところが多いと、これも「基本的なルール違反」と捉えられる可能性大です。

コメントの内容が的を得ない

仕事によって異なると思いますが、原文の解釈が複数可能な部分や、そもそも原文の誤りだと思われる部分、どう考えてもどう調査しても分からない部分などがあった場合は、指定された形式でコメントを提出するよう求められる場合があります。

しかし、ここで的を得ていないコメントを作成してしまう例というのが結構あるように思います。

「この原文は意味不明」とか、「解釈不能」とか、「原文の明らかなミスです」などと書いてあって、チェッカー側で確認してみると、「ぜんぜん原文おかしくないよ!むしろ訳文が間違ってるよ!」ということがあります。

これは結構「翻訳業界あるある」かもしれません。

翻訳をしているとセンテンス、フレーズ、ワード単位で細かい部分まで気をつけなければならないので、作業しているときに視野が狭くなるような傾向があって、勘違いを起こしたりしてしまいがちです。

しかし、この傾向があまりに強くなると、「自分の力量のなさを原文のせいにばかりしている人」だと思われかねません。

また、「後からコメントで報告」よりも「作業しているときに質問」の判断をお願いしたかったなぁというコメントもたまにあります。

これはどういうことかと言うと、コメントに書かれている判断自体が誤っているので、後から全体的に逆の処理で修正しなければならないような場合です。

たとえば、特定の製品名を英語のままにするのか、カタカナで訳すのか、という処理は、判断を誤ると後から全体で修正をしなくてはなりません。

日本語の製品名が存在する案件なのに、「製品名はすべて英語のままにしました」というコメントが納品時に提出されたとき、翻訳会社の担当者は青ざめるに違いありません。

(普通はだいたい作業時に指示がありますので、こんな例はあまり起きませんが、極端な例として…)

以前にフィードバックした内容が改善されていない

翻訳会社によっては、訳文のチェック結果を踏まえて翻訳者に「改善してもらいたい」と思う内容や、「こうするともっと良くなる」というような点をフィードバックという形で知らせてくれるところがあります。

フィードバックを送る、ということは「次回もお願いしたいですよ」とか、「機会があったらまたお願いしたいですよ」という意味合いが根っこの部分にあるはずです。

次がないと判断した翻訳者に対してはその後、「なるべく時間を使わず、コストをかけない」が基本だと思うので、わざわざこういうことをしていただけるのはとてもありがたいことだと思います。

なので、再度依頼があって訳文が納品され、同じチェッカーがその訳文をチェックしたとき、「せっかく時間を使ってフィードバックしたのに、今回もまた同じ問題がある…」となると、やはり印象は悪くなってしまいます。

ということで、フィードバックをもらったら改善できる内容であれば意識して継続的改善を図りたいと、私個人も翻訳者としてそのように強く思っています。

とは言うものの、翻訳者側では改善しにくいフィードバックというのもあったりします。

たとえば、お客様の日本語表現の好みや表現のタッチやトーンに関するような部分は、主観的な判断も関係するので、どう頑張っても合わせるのが難しかったりします。

そういうときはどうするのでしょうか?

この答えは人によって考え方はいろいろだと思います。

しかし、個人的には、まずはがんばってフィードバックどおりに作業して、納品時に「以前もらったフィードバックに従ってがんばって作業しましたが、フィードバックの性質上、意図に沿った作業結果になっているかはわからない」ということを報告すると、受け取る方も感じが違うと思います。

フィードバックを確認してある点と、一生懸命それに合わせようとした点は伝わるのではないでしょうか。

まとめ

翻訳コーディネータ(プロジェクトマネージャ)と翻訳チェッカー(校正者、校閲者、レビューア)の視点で、依頼しにくい実務翻訳者の特徴を挙げてみました。

人によって考え方や感じ方は違うので、はっきりと言い切れる部分は少なかったかもしれません。

しかし、基本的なルールは守って、担当者とうまくコミュニケーションしながら仕事することが大切、ということは言えると思います。

今回は指示やルールに関することにもいろいろと触れましたが、どのような指示やルールがあるのか?についてはほとんど書いていませんでした。

これについては次回、このカテゴリの記事のトピックにしたいと思います。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする