実務翻訳の依頼を受けたとき、守らなければならないルールとは?

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翻訳者志望の人や翻訳学習者向けに「翻訳」カテゴリの記事を書いているこのブログですが、前回の内容は現役の翻訳者の方々にも読んでいただけたようで、公開後うれしい反響をいただきました。

自分よりもはるかに業界年数を重ねられた先輩方にツイッター経由で記事をご紹介いただいたこともあり、たくさんの方に読んでいただきました。ありがとうございました。

そして今回の内容ですが、前回の記事で予告したとおり、翻訳作業時に守らなければならない基本的なルールについてです。

記事の作成予定がそのようになっていましたので、今回もやはり、主に翻訳者志望の人・翻訳学習者向けの内容になってしまいますが、今後の記事では現役の翻訳者さんにも役立てていただけるような内容を盛り込むことを目指したいと思います!

実務翻訳の依頼時に受け取るたくさんの指示

以前の記事で説明したような翻訳会社のトライアルや選考に合格し、晴れて翻訳者として登録されると仕事の依頼を受けることができるようになります。

実務翻訳の仕事では、その案件や作業内容にもよりますが、一般に多くのルールを守ることが求められます。

そのルールは、クライアントや翻訳会社から支給されるさまざまな資料によって示され、翻訳者は細心の注意を払ってそれを守りながら作業します。

今回の記事では、その守らなければならないルールについて、どのような資料が翻訳作業時に支給され、それぞれにどのような内容が記載されるかを説明したいと思います。

その案件や仕事にもよりますが、ここでは多少内容を具体的にしてわかりやすいよう、IT分野での作業を想定したいと思います。

IT分野での翻訳作業の場合、支給される資料は大まかに翻訳指示書スタイルガイド用語集その他の資料に分けられます。

では、それぞれの資料にどのようなルールが記載されるかを以下で紹介します。

翻訳指示書

翻訳指示書には、その案件や作業全体に関する指示が記載されます。これは多くの場合、翻訳コーディネータやプロジェクトマネージャが作成するものですが、たとえば、以下のような内容が含まれます。

  • 翻訳対象はどのような製品やサービスに関するものか
  • 翻訳後のコンテンツはどのような用途で使われるか
  • 翻訳作業において重視される点
  • 翻訳作業用に送付されたデータ内において、何がどこに含まれているか
  • 作業時に注意するべき点

いろいろと例を挙げましたが、案件や作業によっても記載される内容はさまざまで、上記だけにとどまりません。

また、逆にそもそも翻訳指示書自体が支給されない、といったような仕事もあります。

そのあたりは、翻訳会社や案件、担当者レベルでもさまざまに異なります。

スタイルガイド

スタイルガイドは多くの場合、翻訳会社に翻訳作業を発注する発注元企業から支給される文書です。この内容も発注元企業によってさまざまですが、主に以下のような内容が記載されます。

  • 用字・用語
  • さまざまな日本語表記上のルール
  • 定型的に使用する表現などの統一事項

この説明だけではかなり抽象的で、はっきりとはわかりませんので、実例で説明してみたいと思います。

ここで実例として選びたいのは、マイクロソフト社のスタイルガイドです。

通常、スタイルガイドは関係者のみが使用する資料ですので、外部に出ることはあまりありませんが、マイクロソフト社にはランゲージ ポータルというサイトで一般向けに公開されているスタイルガイドがあります。

このサイトのダウンロード ページの「言語を選択してください」ドロップダウン リストから「マイクロソフト 日本語」を選択することで、日本語向けのスタイルガイド(PDF)をダウンロードできます。

データをダウンロードするとわかるとおり、このスタイルガイド、『Japanese Style Guide』では全79ページにわたって詳細なルールが記載されています。

もし、このようなスタイルガイドが翻訳作業時に支給されたら、全体を読み、このルールに従って翻訳作業を進めることになります。

用語集

スタイルガイドには用語に関する記述が含まれることがよくありますが、それとは別に用語集が支給される場合もあります。

用語集は用語集でいろいろと種類があり、主に以下のようなものが使われます。

  • 専門用語を集めた用語集
  • 製品・機能に関する用語集
  • ユーザー インターフェイス(UI)の用語集(UIグロッサリと呼ばれる「対訳集」のようなもの)

上記のうち、最初の2つは比較的わかりやすいと思いますが、最後のUI用語集については少し説明をしたいと思います。

これはその製品やソフトウェアなどにおいて、ユーザーに対して表示される文言に関する対訳を集めた用語集です。

たとえば、ソフトウェアには、ボタンやメニュー、ダイアログなど、ユーザーが操作する部分にさまざまな名前が付けられています。

これらのボタンやメニュー、ダイアログに表示される文言は、表示されるとおりに訳されている必要があります。

Windows 7 で例を挙げると、画面左下隅のメニューボタンをクリックして表示される日本語版の「すべてのプログラム」は英語版では、「All Programs」です。

Windows 7

これは決まった表示なので、当然、翻訳者が勝手に訳してはいけない部分になります。大文字・小文字の表記に至るまで画面上の表示と一致させる必要があります。

このため、翻訳された製品が関わる作業では、このような対訳がUI用語集(グロッサリ)として支給されることがあります。

なお、さきほどのランゲージ ポータルでは、「用語検索」タブからオンラインでこれを検索することもできるようになっています。

その他の資料

翻訳作業時には、翻訳指示書、スタイルガイド、用語集だけでなく、その他の参考資料も支給されることがあります。

この参考資料こそ、作業や案件ごとで支給される内容は本当にさまざまですが、比較的よくあるものとしては、以下のような資料が多いと思います。

  • 原文のコンテンツ全体がわかるデータ
    (マニュアルや文書の翻訳なら、その全体がわかるPDFなど)
  • 以前のバージョンの製品・サービスに関する資料
  • 類似する製品やサービスに関する資料

まとめ

翻訳作業時、翻訳者は支給された翻訳指示書を読み、スタイルガイドに記載されたルールを守りながら各種用語集を検索して用語や表記の違反がないようにしつつ、その他の資料も参考にして慎重に翻訳を進めます。

その作業や案件によって、守らなければならないルールは非常に多くなります。そのため、さまざまな形式で支給される用語集や資料の検索は、作業に不可欠な要素となります。

多くの翻訳者はこの検索作業を効率化するため、それぞれに工夫を行っています。

私自身も複数の形式のデータを一括で検索したり、翻訳済みデータのルール違反をチェックするためのツールを使用していますが、これについてはまた別の記事で紹介できればと思います。

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