翻訳会社のトライアルや選考に受かるために必要なことは?

トライアル

前回の記事では、翻訳会社に登録することで仕事の依頼を受ける方法について説明しました。記事のなかでも説明しましたが、登録の選考の過程では、「トライアル」と呼ばれる翻訳の試験のようなものが含まれる場合がほとんどです。

私自身、トライアルは何回も受けた経験があります。また、翻訳会社に勤務していた頃は逆に、登録希望者から送られてくるトライアル原稿の審査に携わっていたこともあります。

では、トライアルとはそもそも、採用側である翻訳会社の方からするとどのような位置づけのものなのでしょうか?

トライアルとは?

このトライアルは当然、学生のテストのようなものではなく、「この人に翻訳の仕事を依頼して大丈夫か?」ということを判断するためのものです。

また、トライアルに受かったからと言ってすぐに仕事の依頼があるとも限りません。「選考結果はあんまり良くなかったけどとりあえず登録しておく」ためだけに合格を出す、ということさえ場合によってはあります。

どうしてそのようなことをするかというと、翻訳会社側の抱える案件が予想外に増え、既存の登録翻訳者だけでは仕事をこなせなくなった場合に備えるためです。

このようなケースでは基本的にあまり仕事の依頼を期待できません。しかも登録された翻訳者側にはそのような裏事情を知るすべもありません。

採用担当者が「この翻訳者さんいいね!」という判断をして合格を出した場合も、新人は比較的小さい案件を試しに依頼され、その結果を見て問題がなければ次の発注をもらえるということが多いと思います。

これまで依頼した実績のない翻訳者にいきなり大きな案件を依頼するというのは、翻訳会社にとって大きなリスクになるからです。

能力・スキル面で求められること

では、有望な発注先として翻訳会社側に評価してもらい、仕事を積極的に依頼してもらうにはどうすればよいのでしょうか?

採用や評価の基準も会社ごとに異なると思いますが、ここではあくまで審査する側と審査される側を経験した、個人的な実感をベースに説明します。

まず、能力・スキル面では、次のようなことが求められると思います。

なお、以下のトライアルは、英語から日本語(英日、英文和訳)に訳す課題であることを前提に説明しています。

英語力がある

これは当然かもしれません。トライアルには、英語力がないと間違えやすい原文があえて盛り込まれている場合があります。普段の英語力とは関係なく、そのあらかじめ仕掛けられたポイントで間違えてしまうとアウトになることもあります。

また、一般的な採用試験では「持ってる英語の資格やスコアは書いておかないと!」と思って履歴書に書いたりすると思いますが、翻訳会社のトライアルを受ける応募者のほとんどは高いレベルの英語資格を持っています。

そのため、実は中途半端な資格やスコアなら書かない方が受かりやすい場合があります

たとえば、TOEIC 800点の人と860点の人が同時に応募してきたとして、ほかの条件にほぼ差がなかったと仮定します。そうすると、普通は「860点の人を採用しよう」ということになるからです。

そして実は、トライアルの仕上がりや実務経験が重視される場合が多いので、トライアルの結果に問題がなくて実務経験のある人なら、英語の資格欄が空欄になっていても登録される場合が結構あると思います。

日本語力がある

基本的なことのように思えるかもしれませんが、原文のコンテンツに応じた適切な日本語の文章で訳されているか、を審査担当者は見ています。

また、トライアルでは種類の異なるコンテンツが題材として扱われることもよくあります。

たとえば、マニュアル、パンフレット、Webサイトなどを少しずつ出題し、それぞれに応じた文章で仕上がっているか、表現力が必要なところでは表現力を出すことができているか、などを判断します。

翻訳会社によっては、自分の得意とするコンテンツだけを選択して受験できるときもありますが、基本的には、課題に取り組む時間があればすべて受けた方が良いと思います。(自分の専門から大きくはずれるような場合はやめた方がいいかもしれませんが…)

なぜなら、場合によっては合格・不合格にかかわらず、トライアル結果に対してフィードバックをいただけることもあり、自分の得意なコンテンツと苦手なコンテンツ、今後の課題などを知るヒントにもなるからです。

専門知識がある

トライアルには専門知識がないと訳せない原文や、誤訳しやすい部分を含んだ原文が使われます。

コンピュータの分野で例を挙げるなら、「install」という単語はソフトウェアなどが目的語になっている場合はご存じのとおり「インストール」とします。

しかし、同じ単語が使われているセンテンスでも、デバイスや機器などを目的語として物理的な意味合いで使われていると「設置する」や「取り付ける」などのようにしないとおかしくなる場合があります。

このように、さらーっとなんとなく訳していると間違いやすいところがあえて盛り込まれていたりします。

ミスがない

誤字脱字は非常に厳しくチェックされます。会社にもよると思いますが、その基準は結構厳しく、1つあっただけで落とされる場合も。

スペースの入れ方や全角・半角文字の使い方など、表記面での統一もチェックされます。用語や表記に指示がある場合は、それも含めて「規則に従えるか」がチェックされます。

必要なツールを使用できる

WordやExcel、PowerPoint などのOfficeソフトはもとより、実務翻訳では、翻訳支援ツール(翻訳メモリ)と呼ばれる翻訳業務用のソフトを導入しているかどうか、使用経験はあるかどうかなどもチェックされます。

翻訳支援ツールにも種類がたくさんあるので、これについてはまた別途記事を書きたいと思いますが、SDL Trados Studio や memoQなど、業界内でよく使われているものを導入しておくとそのツールを使用した案件を獲得しやすくなります。

キャリア・実績面

能力・スキル面以外では、次のような点が評価のポイントになります。

実務経験がある

これがやはり、最も評価されます。

たとえば、すでにフリーランスになってからどのような内容の案件をどの程度のボリュームで対応したことがあるかが書いてあれば、リアルに登録翻訳者の候補として入ってくると思います。

トライアル結果に問題がなくて、実績として書いてある分野や案件内容が翻訳会社側のニーズにマッチしていれば登録してもらいやすくなるはずです。

翻訳の周辺業務の経験がある

翻訳業務の経験がなくても、訳文チェックや校正の仕事をしたことがある、という場合は実務経験ゼロよりもかなり評価されると思います。

また、翻訳会社には翻訳コーディネータ(プロジェクトマネージャ)と呼ばれる案件管理担当者がいます。この担当者が翻訳者、チェッカーなどに仕事を依頼するのですが、この業務を経験してから翻訳者になる人もいます。

翻訳の学習経験がある

周辺業務の経験がない場合は、翻訳の学習経験があると評価される場合があります。「未経験可」で募集が出ている場合でもこの条件はよく付いています。

翻訳学校の授業や通信講座を受けていた経験があれば、これは当然プラスに評価されると思います。ここでもやはり、募集されている翻訳分野に関連する学習経験があると特に有利になるはずです。

まとめ

というわけで、翻訳会社への登録は、本当にいろいろな面から審査や評価が行われます。今回は少しテーマが大きくて長くなってしまいました…そして書ききれていない内容がまだまだたくさんあります。

ブログでは書けない・書ききれない内容については、その後、コンパクトな約45分のオンライン講座にまとめました。ご興味がありましたらぜひこちらもご覧ください。

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